所沢夢小説(ごんぷオリジナル)

最前線は退きながら、これまで幾人もの女子を沼らせてきたが誰にも手を出さなかった男、所沢ー...。

 

「おい、こいつには近づくなよ。俺のだから。」

 

まさかあいつがこんなこと言うなんてー...。

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時は遡り、平日の昼間。いつも通りの時間にいつものメンツ。白昼堂々聞き慣れた声が響き渡る。

 

「今日は俺の彼女を募集すっか〜。我こそはという猛者、いないか〜?」

 

当然名乗りあげる者はいない。目移りしがちで誰にでも愛嬌を振り撒く彼のツケとでも言うのだろう。

 

不意に一人から私の名前が上がる。

 

「いや、あいつはそういうやつじゃないから...いや、そういう意味じゃないんだけどね?そういう意味じゃないんだけどぉ〜...今じゃない。」

 

うっ...どうせ名乗りをあげようと意識はされないし行動に移すこともないだろうと思っていたけど実際言葉にされると傷つく...。

 

刻一刻と時間は過ぎていき、地雷女子、メンヘラ女子、所沢ガール...ある程度までは好感を示すが最後の最後で尻込みをするので結局今の今まで彼女となる者はいなかった。

 

「おい、もういないのか?んだよしけてんなぁ〜、ちょっとタバコ吸うか。」

 

ひと段落したかと思われたその刹那、普段は配信であまり見かけない男が私に話しかけてきた。

 

「〇〇さん、この前彼氏欲しいって言ってなかったっけ?」

「質問箱で狙えますかって言われてたけど実際どうなの?」

 

思わぬ方向から話しかけられたので少し驚いてしまった。返信しようと指を動かすが早いか、不意に声がする。

 

「おい。」

 

「お前、それ以上言ってみろ。」

 

彼の指が"配信をBAN"に伸びる。

 

「お前もこうはなりたくないよなぁ?」

 

「いやだめだな、こういうやつは一回わからせねぇと学習しねぇ。」

 

"配信をBAN"...

 

「フゥ〜!〇〇に近付く虫は俺が叩き潰さねぇとなァ〜!」

 

所沢リスナーの常連の一人が茶化し始める。

 

「あいつはだめでも俺はわんちあるよね?」

 

すると、そこに割って入るかの様に、

 

「おい、こいつには近づくなよ。俺のだから。」

 

あらゆる所沢ガール達にかけている「愛してるよォ〜、俺の世界には君しかいらないよ●●ちゃ〜ん!結婚してくれぇ〜!」といういつものトーンとも違う...。

 

えらく真っ直ぐで、でも少し照れくさそうな。

 

「〇〇、この後時間あるか?ちょっと大事な...いや、大事な話があるから通話したいんだけど...。」

 

いつもはおちゃらけていて誰にも愛の言葉を囁く彼の初めて見せる一面。

 

やれやれ、こんなの断れないなぁ。

 

平日8時間続いた配信は、私の返信を最後にブツリと終わりを迎えた。

 

さーて、どうやってOKしてやろうかな?

 

私の心は、初恋の少女のように軽やかに小躍りしていた。

 

              著:ごんぷ